メディカルケアメイクと美容医療

五感を使って化粧の力を引き出すことを目的としたものに医療現場で使われている化粧療法があります。

その一つは、顔にあざや傷跡がある人にメイクを施して隠すことで悩みを解消しようとすることを目的とするものです。

顔にシミやあざ、傷跡がある人は相当なストレスを抱えています。

このストレスは他人から見られることで感じるものであるなら、隠すことでストレスから解放されるのではないか。

この考えのもとに行われているのが隠すメイクアップです。

リハビリメイクやメディカルケアメイクなど、いろいろな呼び名がありますが、大きくは化粧療法に含まれます。

最近では皮膚科でも化粧外来を設けて、これらの患者さんに対応するところが増えてきています。

また、資生堂ではライフクオリティビューティセンターを開設して、あざなどの悩みがある人に専門スタッフが対応して、メイク指導や専用化粧品の紹介をしています。

実際には隠すメイクはとても難しく、下手をするとファンデーションが厚塗りになって余計に目立ってしまいますから、効果的な隠すメイクには、かなりの技術と特殊な化粧品が必要のようです。

一方で、最近は美容皮膚科の進歩が目覚しく、レーザーや、化粧品では使えない薬剤を配合した外用剤などを用いて、シミやあざを根本から治療してしまう技術を学会などで目にするたびに、化粧品の限界を感じるところがあります。

特に日光によって現れる日光性色素斑などのシミは、いくら何万円もの美白化粧品を使っても取ることは難しく、むしろ美容皮膚科に頼ることをおすすめしたい。

これからは治療の美容皮膚科とその状態を維持するための化粧品の役割が明確になり、化粧品と美容皮膚科との共存の時代が来るのではないでしょうか。

高齢者への化粧療法

化粧療法として一般に知られているのが、高齢者に対するメイクの効果です。

これは、老人ホームや老人保健施設などに入所されている高齢者の方にメイクを施すことで、認知症などの改善に効果があるというものです。

私も以前に勤めていた化粧品会社でチームを作って老人保健施設に出向き、ボランティアとしてメイクを施す活動をしていました。

私はメイクができないためにネイル専門でした。

このネイルも単に塗るだけでの簡単なネイルで、時にははみ出ることもあり、とてもネイルを塗ってあげているとは言えない恥ずかしいものですが、これが結構皆さんに喜んでいただけたのです。

色味も五感で感じられるように、派手ではなく、爪が健康的に見えるような、ある程度色のついたものを選び、塗った後はきれいですねとほめます。

初めての人はメイクには抵抗感がある人も、ネイルであればやらせていただける場合が多いようです。

そこに入所されていた人には表情もなく、会話も少ない状態の方も多いのですが、メイクが進むうちに笑顔が生まれ、周囲の人達と笑顔で会話されるようになりました。

これこそが化粧の力だと実感する瞬間です。

メイクはその日の入浴時に落とされてしまいますが、ネイルの場合は一ヶ月後でもわずかに残っています。

「これが前に塗ってもらったもの」と言って、ぼろぼろに剥げてわずかに残っているネイルを笑顔で見せていただいた時、思わず涙腺が緩んでしまったことを記憶しています。

また、ある時はスタッフに両腕を支えられてきた人が、メイクが終わったあと、「きれいにしてもらったんだから、自分で歩かなくては」と言って帰りは自分で歩いて帰られた人も見ました。

まさに気力が体力に勝る証拠です。

これが化粧の持つ価値であり、その価値を使った社会貢献でした。

化粧品会社が社会に果たす役割はこうでなければなりません。